建築の跳躍力 第8回講演: 輪の家・モザイクの家/武井誠+鍋島千恵:接点の風景 |
強い形態の中に潜む知性 執筆者:満田衛資(満田衛資構造計画研究所) |
TNAは、誤解されがちな建築家である。 このように、言葉よりも先にジェスチャーが出るほどに強すぎる形態と、真相に辿りつきにくいネーミングが、TNA建築を誤解へと導きがちなことについては、おそらく異論はないだろう。 が、あくまでも、それは「誤解」の生まれる理由でしかない。このレヴューも彼らのネーミングを批評することが目的ではないので、ここから先は、今回の講演の中で武井誠氏が発したいくつかの言葉をピックアップしながら、その「誤解」が単なる「誤解」に過ぎないことを明らかにしてみたいと思う。 「建築とアートの境はあって欲しい。かっこいいとか素敵という詩的な言葉だけで評価されたくない。」 これらの言葉を見れば、彼らは表層的なデザインへの興味は薄く、愚直に『建築』を作ろうとしていることがわかるだろう。 ここまでに述べてきたように、特徴ある形態を作ることはTNAにとっての主たる目的では決してなく、形態は彼らが得るべき解に到達するためのトータルデザイン(=設計)の一部にすぎない。その上で多くの人が惹かれてしまうような特徴的で魅力的な形態をデザインできているのは、その才に長けているだけの話であろう。建築として備わっているべきものを意識し、そして、単なる合理に振り回されることなく、と同時に、表層のデザインも疎かにせず、かつ、内部の構成も破綻無く解ききることが目指すべき建築の設計のあり方ではないのか、という強い倫理観を秘めたメッセージを発しているのだから、非常に頼もしい建築家だとも言えよう。 あえて意地悪な言い方をするとすれば、彼らのここまでの成功は、住宅規模、という多様な変数を比較的等価に扱いやすい条件下であったから、と言えなくもない。一般的に、建築はある規模を超えると「解く」ように設計をしようとすればするほどに、変数間の優先順位を際立たせなければならなくなり、つまり、彼ら特有の『等価に扱い同時に解く』スタイルが通用しにくくなるものである。そのときに彼らがどのような建築を生み出してくれるのか、TNAの2ndステージが待ち望まれる。 さて、ここで最後に『不親切』とまで言われてしまった彼らの作品に対するネーミングについて一言付け加えておこう。TNAが最も意識しているという『内部と外部の接点』とは、建築で言えば、境界面、つまることろ外壁面のことであり、であるとすれば、彼らの作品のネーミングが外装材からつけられていることについても、あぁなるほどね、と腑に落ち、改めてTNA建築をその境界面から見つめなおしてみたくなるのではないだろうか。 |
執筆者プロフィール:
満田衛資(満田衛資構造計画研究所)構造家。満田衛資構造計画研究所代表/
1972年京都市生まれ 1997年京都大学工学部建築学科卒業/ 1999年京都大学大学院工学研究科建築学専攻修了/ 1999-2006年佐々木睦朗構造計画研究所/ 2006年満田衛資構造計画研究所設立/ 2007年大阪成蹊大学非常勤講師/ 2009年京都精華大学大学院非常勤講師 |
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□第8回講演: 輪の家・モザイクの家/武井誠+鍋島千恵:接点の風景 □日時: 2009年6月27日(土) □武井誠+鍋島千恵/TNAプロフィール: 武井誠(たけい・まこと)1974年東京都生まれ/1997年東海大学工学部建築学科卒業/1997〜1999年東京工業大学塚本由晴研究室研究生+アトリエ・ワン/1999〜2004年手塚建築研究所/2005年TNA設立、同代表/現在、東海大学・武蔵野美術大学・東京理科大学非常勤講師 鍋島千恵(なべしま・ちえ)1975年神奈川県生まれ/1998年日本大学生産工学部建築工学科卒業/1998〜2005年手塚建築研究所/2005年TNA設立、同代表 □輪の家 所在地:長野県北佐久郡軽井沢町/主用途:週末住宅/敷地面積1387.27平米/建築面積:33.87平米/延床面積:101.61平米/構造・規模:木造・地下1階、地上2階 □モザイクの家 所在地:東京都目黒区/主用途:専用住宅/敷地面積58.45平米/建築面積:33.26平米/延床面積:84.50平米/構造・規模:鉄骨造・地上3階 |