建築の跳躍力 第11回講演: 「ハンカイ」ハウス・澄心寺庫裏コンペ案/宮本佳明: 残るもの、残らないもの/残すもの、残さないもの |
連続するものとして 執筆者: 垣内光司 ( 八百光設計部 ) |
‘97年から始まったアーキフォーラムも12年目を迎えた。シーズンごとにコーディネーターが変わる中、最多講演数6回の宮本佳明氏が今回、改修と増築、2つのプロジェクトについて語った。 「ハンカイ」ハウス/残すもの、残さないもの 澄心寺・庫裏コンペ案/残るもの、残らないもの 宮本佳明氏の大胆な造形には、いつもながら驚かされる。何故か。おそらく一般的思考上で容易に了解しうる合理性を大きく逸脱しているからではないか。逸脱するその大胆さとは一体何なのか、その源はどこから導かれているのか。容易に了解できないものを「作家性」という言葉だけで表現するのは、想像力が乏しいし、それでは建築家という職能があまりにも切なすぎる。氏のプロジェクト説明からは、昨今の作家性を補強するような抽象的・詩的な言葉や表現は一語たりとも聞こえてはこない。ましてや新しいプロセスで今までにない空間や建築を目指すとか、建築はこうあるべきなどという到達点を示すこともない。ただ、その場にまつわる記憶や地勢・風景といった重層する履歴を正確に読み解き、造形へとシフトさせ、それを支える構造技術などが明快な言葉で淡々と語られる。それらの説明は、逸脱どころか合理性に富んでおり、つい納得してしまう。重層する履歴を編集することによって導かれたその造形には、大胆さと同時に初めからそこにあったかのような一種のノスタルジーを筆者は感じてしまう。それが、氏の言う「そこに生えたような建築」ということに繋がるのかもしれない。ある抽象性をもって新たな到達点を示すのではなく、重層された履歴や風景を読み解き、そこに介在する。古いものでも新しいものでもなく、その場の履歴や風景に連続するものとして、氏の建築はあるのではないだろうか。新たなプロセスや抽象性が注目を浴びる程、氏の建築は浮かび上がり、その鋭さを増すのである。 |
|
執筆者プロフィール: 垣内光司 ( 八百光設計部 ) 建築家、八百光設計部代表/ 1976年京都市生まれ / 1999年大阪芸術大学芸術学部建築学科卒業/ 1999-2001年阿久津友嗣事務所/ 2002年実家の青果店八百光に設計部を設立/ 2008年一級建築士事務所八百光設計部に改称 |
|
□第11回講演: 「ハンカイ」ハウス・澄心寺庫裏コンペ案/宮本佳明 :残るもの、残らないもの/残すもの、残さないもの □日時: 2009年9月26日(土) □ 宮本佳明 プロフィール:1961年兵庫県宝塚市生まれ/1984年東京大学工学部建築学科卒業/1987年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了/1988年アトリエ第5建築界設立/2002年株式会社宮本佳明建築設計事務所に改組/現在 大阪市立大学大学院教授, 東京理科大学,大阪大学非常勤講師 □「ハンカイ」ハウス 所在地:兵庫県明石市/主用途:専用住宅/敷地面積:850.18平米/建築面積:111.72(既存167.3)平米/延床面積:193.47(245.3)平米/構造・規模:木造・地上2階 □澄心寺庫裏コンペ案 所在地:長野県上伊那郡箕輪町大字三日町289番地 澄心寺敷地内/主用途:庫裏/延床面積:212.68平米/http://kokorosumu.web.fc2.com/compe_new_index.html |