講師:石堂威(都市建築編集研究所)
□Why 石堂威 ?
今回のアーキフォーラムでは都市建築編集研究所代表の石堂威さんをお招きします。 石堂さんは、言うまでもなく日本の建築界に大きな影響を与えてきた編集者の一人です。改めて石堂さんがこれまで編集に携わられた本を眺めると、その広さと深さに驚きます。 まずは「広さ」。1980年から1995年まで「新建築」の編集長、「新建築 住宅特集」の創刊編集長、「GA JAPAN」の創刊編集長を歴任されました。その間、バブル景気が訪れ、そして崩壊。建築が量産されたこの時代に、今も続く2大建築雑誌の編集長を務められました。建築が持つ強さと社会状況に左右されてしまう脆さの両輪を経験された事と思います。 そして「深さ」。「光の教会 安藤忠雄の現場」「フランク・ロイド・ライトの帝国ホテル」「清家清」「篠原一男 住宅図面」「村野藤吾建築案内」 など、一人の建築家にスポットを当てた書物は、新建築やGA JAPANといった雑誌のマクロな視点とは対照的にミクロでかつ奥行きのある視点を、書物を通じて提示されたと思います。 編集とは情報を相互に組み合わせる事で新たな価値を社会に提示する事だと思います。その意味で石堂さんの膨大な編集歴の中でも1991年に新建築の6月臨時増刊である「建築20世紀 part1,part2」、2005年にTOTO出版から出版された「日本の現代住宅」は、年代を区切り、建築を網羅的に俯瞰する事で客観的なアーカイブを構築するとともに、何人もの執筆者がそのアーカイブをリ・トリミングし、スポット的に論じるという二重構造を持つため、驚くほどの「広さ」と「深さ」、そして「新たな価値」を建築界に(いくつも)提示しているように思います。 このように石堂さんはこの50年の中で最も多くの建築を見てきた、最も客観的な視点を持つ人の一人であると言えます。今回のアーキフォーラムでは「過去から未来へ −リアルとフィクション−」というタイトルを提示して頂きました。編集を通じて建築を注視し続けた石堂さんが語る「過去と未来」は、新たな視点を私たちに与えてくれることと思います。
今、建築とメディアの関係は大きな変化のまっただ中にあります。この10年程の間に、新建築やGA JAPANとは裏腹に「建築文化」「SD」「10+1」といった建築雑誌が休刊になりました。 メディアは社会において建築を「伝える」役割を担っています。今回のシリーズテーマである「誰がために建築は建つか」の文脈にたって考えた場合、「誰がために建築を伝えるのか」という言葉が思い起こされます。いわゆる「編集方針」の中にこの意識は入っているわけですが、読み手がそのことを意識した眼差しをもつことで、「誰がために建築が建つか」という問いはより強固なものになると思います。 編集者の生の声を聞ける機会は多くないのが現状です。インターネットが普及する中、本を含めた建築メディアのあり方について会場の皆さんとともに考えることができればと思います。
(満田衛資+山口陽登)
□第12回講演:
過去から未来へ −リアルとフィクション−/石堂威
□日時:2011年4月23日(土)
●略歴
石堂威(いしどう・たけし)
1942年 台北市生まれ
1964年 早稲田大学第一理工学部建築学科卒業、新建築社入社
1980年『新建築』編集長(〜91)
1985年『住宅特集』創刊編集長(〜88)
1992年『GA JAPAN』創刊編集長(〜95)
1996年 都市建築編集研究所設立、代表。現在に至る
書籍、機関誌等の編集制作を主に手掛ける
現在、JIA「日本建築大賞」、大阪府建築士会「建築人賞」審査員
●編集を手掛けた主な書籍および共著
『建築20世紀』(Part1、Part2) 新建築社
『建物が残った』磯崎新著 岩波書店
『建物のリサイクル』青木茂著 学芸出版社
『光の教会 安藤忠雄の現場』平松剛著 建築資料研究社
『フランク・ロイド・ライトの帝国ホテル』明石信道著 建築資料研究社
『昭和住宅物語』藤森照信著 新建築社
『都市環境学へ』尾島俊雄著 鹿島出版会
『日本の現代住宅 1985─2005』共著 TOTO出版
『清家清』( 作品集) 共著 新建築社
『建築 風土とデザイン』徳岡昌克著 建築資料研究社
『篠原一男 住宅図面』共著 彰国社
『村野藤吾建築案内』共著 TOTO出版
|